朝起きられない中学生|ODの治療をしても改善しないときに考えること
「何度起こしても起きられない」 「午前中は動けないのに、夕方から元気になる」 「頭痛や腹痛があり、学校へ行こうとすると具合が悪くなる」 「起立性調節障害の薬を飲んでいるけれど、なかなか改善しない」
もし、お子さんにこのような状態が続いていたら、「夜更かしやゲームが原因では?」「本当は起きられるのでは?」と思うことがあるかもしれません。毎朝声をかけても動けない姿を見ていると、どうしたらよいのか分からなくなることもあるでしょう。
先に結論をお伝えすると、中学生が朝起きられないのは、本人の意志や生活習慣だけの問題とは限りません。
起立性調節障害(OD)は重要な原因の一つです。しかし、それだけでは説明できず、睡眠、栄養、胃腸の働き、血糖の変化、感染症にかかったあとの影響など、複数の要素が重なっていることがあります。
大切なのは、最初から一つの原因に決めつけないことです。同じ「朝起きられない」という症状でも、その理由は一人ひとり異なります。さらに、いくつかの要素が重なって、回復しにくくなっていることもあります。
まず一般診療で治療すべき病気がないかを確認し、そのうえで、症状の始まり方や経過から、回復を妨げている要素がないかを考えることが大切です。
朝起きられないのは「怠け」なのでしょうか
目を覚まして朝食をとるまでにも、エネルギーが必要です
目を覚まし、起き上がり、着替え、朝食をとるまでにも、体のさまざまな働きが連動する必要があります。
睡眠から覚醒へ切り替える
血圧と脳への血流を保つ
体温を上げる
血糖を安定させる
脳と筋肉へエネルギーを供給する
これらの働きのどこかに負担があると、目は覚めても起き上がれない、着替えまで進めない、朝食を受け付けない、といったことが起こります。
登校するためには、体だけでなく脳にも多くのエネルギーが必要です
家から出て学校へ行くためには、歩いたり、電車やバスに乗ったりする体のエネルギーが必要です。それだけではありません。
まぶしさや音、においなど、目・耳・鼻などから次々に入る情報を脳で整理する必要があります。友達や先生との会話では、相手の言葉や表情、周囲の状況を読み取り、その場に合った返事や行動を考えます。時間に合わせ、周りに遅れず行動することにも脳のエネルギーを使います。
本人には学校へ行きたい気持ちがあっても、体や脳が使えるエネルギーが足りないと、登校までたどり着けないことがあります。
夜にスマートフォンを見たり、ゲームをしたりできることと、朝から登校できることは同じではありません。
横になったまま自分のペースで行える短時間の活動と、立位を保って移動し、教室で何時間も過ごすことでは、体に必要なエネルギーも、受ける刺激の量も大きく異なります。

最初に確認したい起立性調節障害(OD)
起立性調節障害は、思春期前後に多くみられる自律神経機能の不調です。
立ち上がったときに、血圧や心拍数を適切に調節することが難しくなり、脳や全身への血流を保ちにくくなります。
次のような症状が手掛かりになります。
朝なかなか起きられない
立ちくらみ、めまい
立っていると気分が悪くなる
動悸、息切れ
頭痛、腹痛、吐き気
入浴時や暑い場所で具合が悪くなる
午前中に悪く、午後から夕方に軽くなる
診断では、症状と経過に加えて、横になった状態から立ち上がった後の血圧・脈拍の変化などを確認します。
ただし、朝起きられない=すべてODではありません。
また、ODと診断されていても、ほかの問題が重なることで回復しにくくなっている場合があります。
まず一般診療で確認したい病気
朝起きられない、疲れやすい、頭痛、動悸、集中できないといった症状は、OD以外の病気でも起こります。
症状によっては、次のような病気や状態が隠れていないかを調べます。
貧血、鉄欠乏
甲状腺機能の異常
感染症や炎症性疾患
心臓、呼吸器、神経系の病気
睡眠時無呼吸などの睡眠障害
肝臓・腎臓の病気
薬の副作用
月経に伴う出血や食事量の低下
うつ、不安、強い心理的ストレス
まずは一般診療で見逃してはいけない病気を調べ、見つかった場合は適切な治療につなげることが大切です。
ODの背景に、別の要因が関わっていることがあります
ODの治療を受けても十分に改善しない場合、ODの背景に、睡眠、栄養、腸内環境、血糖、エネルギー代謝、感染後の変化など、回復を妨げる別の要因が関わっていることがあります。
体は、脳、自律神経、ホルモン、腸、免疫、血糖、ミトコンドリア(細胞内でエネルギーを作る仕組み)などが、ばらばらに働いているわけではありません。お互いに連絡を取り合う、一つのチームのように働いています。
どこか一つの働きが落ちると、ほかの働きにも影響が広がることがあります。そのため、症状の経過をたどりながら、体全体のつながりを見ていくことが大切です。
睡眠・体内時計
思春期には、眠くなる時刻が遅くなりやすい傾向があります。夜間の光、スマートフォン、休日の長い寝だめ、日中の活動量低下が重なると、睡眠時間帯が後ろへずれていきます。
一方で、「早く寝なさい」と言うだけでは改善しないことも少なくありません。
鼻づまり、いびき、睡眠中に呼吸が止まる、脚がむずむずする、痛みやかゆみで目が覚めるといった様子は、睡眠の質が低下している手掛かりになります。
HPA軸(脳と副腎が連携し、ストレスや朝の活動に対応する仕組み)とコルチゾールの日内リズム
朝に活動できる状態へ切り替わるためには、体内時計、自律神経、体温、脳、ホルモンが連動して働きます。
その一つが、脳と副腎が連絡を取り合い、ストレスに対応したり、朝から動ける状態へ切り替えたりする仕組みです。これをHPA軸といいます。
HPA軸に関わるコルチゾールには、1日の中で分泌量が変わるリズムがあります。通常は起床前後に増え、血圧や血糖、目覚めを支え、その後は夜に向かって少なくなっていきます。
慢性的なストレス、睡眠リズムの乱れ、感染や炎症などは、HPA軸やコルチゾールのリズムに影響することがあります。
栄養状態
成長期には、エネルギー、たんぱく質、鉄、ビタミン、ミネラルなど多くの栄養素が必要です。
食事量の低下、強い偏食、月経量の多さ、胃腸症状などは、栄養不足が関係していないかを考える手掛かりになります。血液検査で明らかな欠乏がなくても、成長期に必要な量を満たせているとは限りません。
消化吸収・腸内環境
腹痛、吐き気、便秘、下痢、膨満感があると、十分な量を食べられず、栄養やエネルギーを取り込みにくくなります。
体質やストレス反応などにより、食べ物を分解する消化酵素が十分に出ていない場合があります。消化が不十分になることで、腸内環境に影響することもあります。
また、腸は、食べ物を消化・吸収するだけの場所ではありません。体を守る免疫、自律神経、脳とも影響し合っています。
腹痛、吐き気、便秘や下痢、食後のおなかの張りに加え、食事内容、感染歴、抗菌薬の使用歴なども、消化吸収や腸内環境の状態を考える手掛かりになります。
血糖変動
食事量が少ない、朝食を食べられない、糖質に偏った食事が多い、食事間隔が長い状態では、血糖を保つために交感神経やホルモンの働きが強く必要になります。
空腹時の不安感、動悸、冷汗、手の震え、イライラ、夜中に目が覚める、朝に強くだるいといった症状は、食事や血糖の変動が関係している手掛かりになることがあります。
症状が出る時刻や、食事の前後で体調がどう変わるかという情報も重要です。ただし、これらの症状だけで血糖が原因だと決まるわけではありません。
ミトコンドリア(細胞内でエネルギーを作る仕組み)・エネルギー代謝
食事からとった栄養を、脳や筋肉が使えるエネルギーへ変える過程には、多くの栄養素と酵素が関わっています。ミトコンドリア(細胞内でエネルギーを作る仕組み)は、その中心的な役割を担います。
感染後の炎症、栄養不足、睡眠不足などが重なると、エネルギーの産生や利用に負担がかかり、少しの活動でも消耗しやすくなる可能性があります。
少し動いただけで強く消耗する、休んでも回復しにくい、活動したあとに体調が悪化するといった疲れ方は、エネルギーを作る仕組みの負担を考える手掛かりになります。栄養状態や感染歴など、ほかの情報と合わせて考えることが大切です。
炎症・免疫系の変化
炎症とは、感染や傷などから体を守り、傷んだ部分を修復するために起こる反応です。けがをしたところが赤く腫れるのも炎症の一つです。一方、体の中で弱い炎症が長く続いていても、外からは分からないことがあります。
感染症、アレルギー、副鼻腔炎、慢性的な胃腸症状などによって免疫の活動が続くと、疲労や睡眠、食欲、認知機能(理解する、覚える、考える、判断するといった脳の働き)に影響することがあります。
腸内環境が乱れ、腸のバリア機能がうまく働かなくなると、本来は腸の中にとどまってほしい物質の影響を受けやすくなり、免疫が刺激されることがあります。免疫が異物に反応すると、体の中で炎症が起こります。
炎症が長く続くと、体はその対応にエネルギーを使い続けます。さらに炎症によって酸化ストレスが増えると、ミトコンドリア(細胞内でエネルギーを作る仕組み)にも負担がかかる可能性があります。
その結果、「きちんと食べているのに疲れる」「たくさん寝ても回復しない」「頭が働かない」「少し動くだけでぐったりする」といった不調につながる場合があります。
つまり、疲れの原因が「体力不足」だけにあるとは限りません。腸、免疫、炎症、エネルギーを作る仕組みは、別々ではなく、つながっています。

感染後の影響
高熱を伴う感染だけでなく、「軽い風邪だった」「鼻水だけだった」という感染のあとから、朝起きられない、強い疲労、頭痛、集中力低下、動悸などが続くことがあります。
感染後に始まることのある不調として、次のような状態が知られています。
ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群):休んでも改善しにくい強い疲労が続き、わずかな活動のあとに症状が悪化することなどにより、日常生活が大きく制限される病気です。
Long COVID(新型コロナ罹患後症状):新型コロナ感染後に、疲労、息苦しさ、頭が働きにくいなどの症状が続いたり、新たに現れたりする状態です。
POTS(体位性頻脈症候群):横になった状態から立つと脈が大きく速くなり、動悸、めまい、疲労などが起こる、起立不耐の一つです。
感染してから少し時間がたっていたり、感染時の症状が軽かったりしたために、現在の不調が感染症と関係していることに気づかない場合もあります。
感染症のあとに、軽い炎症が続く、免疫の働きが変化するといったことが起こり、自律神経、HPA軸(脳と副腎が連携し、ストレスや朝の活動に対応する仕組み)、腸内環境、栄養、血糖、エネルギー代謝などへ影響することで、回復が妨げられている場合があります。
少し動いたあとに悪化する「PEM」に注意します
感染後に体調を崩した場合、特に確認したいのが、少し動いた当日または翌日以降に症状が大きく悪化するかどうかです。
これは労作後症状増悪(PEM)と呼ばれ、ME/CFSや一部のLong COVIDで重要な症状です。
PEMが疑われる場合、「体力をつけるため」と無理に運動量を増やすと、かえって状態が悪化することがあります。
PEMがある場合は、まず症状を悪化させない範囲に活動量を調整することが大切です。起立不耐、睡眠、痛み、栄養・消化吸収、腸内環境、血糖、炎症・免疫、エネルギー代謝などに、対処できる要素が見つかることもあります。
すべての方に共通して有効な一つの治療法は、まだ確立していません。しかし、これは「できることがない」という意味ではありません。
現れる症状と回復を妨げる要素は人によって異なるため、治療や対処法も一人ひとりの状態に合わせて考える必要があります。
必要に応じて確認したい生活環境への曝露
湿気やカビの多い環境、有害金属、身の回りの化学物質が体調に影響することもあります。
転居、水害、漏水のあとから体調が変わった、家や特定の教室で症状が強くなる、家族にも似た症状があるといった経過は、生活環境との関係を考える手掛かりになります。
検査で確認できることもあります
栄養状態、HPA軸(脳と副腎が連携し、ストレスや朝の活動に対応する仕組み)、消化吸収・腸内環境、血糖、エネルギー代謝、炎症・免疫、感染後の影響などについては、血液、尿、唾液、便などを使って調べる方法があります。
一般的な検査では分かりにくい体の働きが、症状の背景を考える手掛かりになることがあります。
ただし、検査結果だけで原因を決めるのではなく、いつから、どのような症状が始まったのかという経過と合わせて考えることが大切です。
どの診療科を受診すればよいのでしょうか
まずは、かかりつけの小児科または内科へ相談してください。
起立時の症状が目立つ場合はODの評価ができる小児科、循環器領域、睡眠の問題が強い場合は睡眠外来などが選択肢になります。
次の場合は、早めの医療機関受診が必要です。
意識を失った、けいれんした
胸痛や強い息苦しさがある
体重減少や食事・水分摂取の著しい低下がある
発熱が続く
激しい頭痛、麻痺、歩行の異常がある
ODの治療を受けても改善しない場合は、ODの背景に別の要因が重なっていないか、体全体を見直すことが次の手掛かりになる場合があります。
まとめ―朝起きられない体には、起きられない理由があります
中学生が朝起きられないとき、起立性調節障害は重要な原因の一つです。しかし、ODだけで説明できるとは限りません。
まず一般診療で治療すべき病気がないかを確認することが大切です。そのうえで、睡眠と体内時計、HPA軸(脳と副腎が連携し、ストレスや朝の活動に対応する仕組み)、栄養状態、消化吸収・腸内環境、血糖、ミトコンドリア(細胞内でエネルギーを作る仕組み)を含むエネルギー代謝、炎症・免疫、感染後の影響なども、症状の背景を考える手掛かりになります。
朝起きられない状態を、生活習慣や気持ちの問題だけで考えず、体の中で何が起きているのかという視点を加えることが大切です。
体が整うと、気持ちはあとから動き出すことがあります。
もし、ODの治療を受けても改善しない、感染後から体調が戻らない、少し動くと当日や翌日以降に悪化するといった状態が続いているなら、これまでとは違う視点から体全体を見直すことが、次の一歩になるかもしれません。
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